2022年のゴールデンウィークに開催したKIHARA TOKYOの企画展「窯元とともに考える。今、KIHARA にできること」で初お披露目された「GEN酒器」の泡化粧バージョン。
KIHARAが焼きものの産地商社として、どのように環境問題に取り組んでいったら良いかを考えるきっかけになったプロジェクトのひとつだ。
ご協力いただいた有田焼の窯元・吉右ヱ門製陶所で、泡化粧の製造現場を取材した。
(取材・文:ハマノユリコ)
限られた資源を無駄にしない吉右ヱ門製陶所の取り組み
1673年、佐賀県有田町応法にて開窯した吉右ヱ門製陶所は、長らく業務用食器の製造をメインとしており、多くの料理人の要望に応える中で培った造形力や表現力を生かしたものづくりに定評のある窯元です。
5年ほど前から泡化粧の開発を始めたという吉右ヱ門製陶所の原田吉泰さんに、そのきっかけを伺うと、
「豊富な種類を扱う業務用食器では、素焼きのストックも多く、棚に積んで保管しているときの重みで割れる”積割れ”なども発生します。年間で結構な量の産業廃棄物を出していることになり、素焼きの有効活用ができないかと考えたのが始まりです」
破損した素焼きを粉にして釉薬に混ぜる加飾法「泡化粧」
昔から、廃棄品となる破損した素焼きの器を、細かく砕いて釉薬の原料にすることはありますが、それでは微量の消費にしかつながらないといいます。
それを意匠として昇華させた加飾法が、「泡化粧」です。
製造過程で破損した素焼きは、このように産廃用のケースに溜めておき、産業廃棄物として処理されることが一般的です。
吉右ヱ門製陶所では、これら廃棄される素焼きの器を粉にして釉薬に混ぜて加飾するアップサイクルに取り組んでおり、今回はその製造の様子を取材させていただきました。
まず、破損した素焼きを細かく砕き、ポットミルという道具を用いてペースト状にします。
そのままだと、解けない素焼きの粒がまだザラザラするので、そこに釉薬を混ぜて泡だてることで、加飾に使える状態になるのだそう。
今回のプロジェクトでは、KIHARAの定番「GEN酒器」に泡化粧を施していただきました。
泡だてた部分をスポンジですくい、うつわの生地に優しく塗布して加飾します。
ひとつひとつ手作業で生み出される泡の表情には、唯一無二の自然な美しさが宿ります。
発色を良くするため、さらにスプレー吹きで釉薬をかけるなど、どの工程にも職人たちの繊細な技術が生かされています。
焼きもの産地を取り巻く環境
有田焼の多くは熊本県・天草市の山から採掘される天然の陶石を原料としています。 採掘された陶石は、各工程の職人が技術や経験を生かして成形し、1300度の窯で焼成することで、美しく硬質な磁器に生まれ変わります。
しかしながら、一度焼き締めた磁器は、そのままでは土に還ることはありません。
そのため、製造過程で割れたり欠けたりした商品や、出荷基準を満たさない商品は、販売や再利用ができず廃棄処理をするのが一般的です。
「天草の陶石は限りある資源です。手元に届いた原料は無駄なく使い切りたい」
そう話す原田さん。
泡化粧の商品を作り始めてから、年間の素焼きの廃棄量をそれまでの半分近くまで減らすことができるようになったそうです。
吉右ヱ門製陶所の取り組みに興味をもち、今回のプロジェクトを依頼したKIHARAの担当者は、
「今回はGEN酒器をベースに開発協力いただきましたが、今後は新たな商品にもチャレンジしたいですね。限られた資源を無駄にせず、少しでも自然環境に配慮した焼きものづくりのサポートができるよう、一緒に考えていきたいです」と意欲をみせます。
本プロジェクトから商品化された「GEN 酒器 – 泡化粧」は、白・黒・ブロンズの3種類。
オンラインストアからの販売もスタートしました。