小泉誠さんとKIHARAの出会いは、約20年前に遡る。振り返ればKIHARAの商品デザインを継続して担当いただいている唯一の外部デザイナーだ。初めての商品開発は8人のデザイナーが参加した有田HOUENシリーズだった。その後、「道具として使える器」をコンセプトに開発したSITAKUシリーズがKIHARAのヒット作となり、不定期にアイテムを追加しながら現在にいたる。
一貫してシンプルなものづくりを追求する小泉さんと、開発に携わるKIHARAの担当者に話を聞いた。
(取材・文:ハマノユリコ)
動作から考える「道具として使える器」
2011年に誕生したSITAKUシリーズは、擦る、絞る、おろす、保つ、置くといった食事の支度を、台所から食卓へ移して使うことをイメージしたキッチンツール。おろし器・すり鉢・すり棒・レモン絞り・お玉立て・キャニスターなど、お鍋料理にぴったりのラインナップからスタートした。
[ SITAKU|商品開発プロジェクト事例 参照 ]
食卓で語らいながら支度をする、楽しい笑顔が目に浮かぶ商品の数々は、KIHARAの代表作となっていく。
2013年には、焼く、煮るなどの料理を担う、グラタン皿やグリルパンが仲間入り。
SITAKUの商品開発を進める上で、最初に考えるのが、そうした動作のキーワードだという。
切る、計る、注ぐ、混ぜる、砕くなど、まだ取り上げていない動作から商品を発想していった結果、2022年、今回は「注ぐ」キーワードからコーヒーポットやしょうゆ差しなどの商品群が誕生した。
「小泉さんに、SITAKUの新作を作りませんか?と話を持ちかけたのは、確か2015年頃だったと思います。かなり時間が経っていますよね。思い返して、自分でもびっくりしました」と話すのは、KIHARAの開発担当スタッフ 池田さん。
対する小泉さんも「7-8年前にお声がけをいただいて、アイデアスケッチはいくつもできあがっていましたが、慌ただしい日々が続き、なかなか具体的な検証をすることができずにいました」と振り返る。
プロジェクトが本格的に進み始めたのは2020年。奇しくもコロナ禍となり、「現場周りが減り、事務所に篭ってじっくりとデザインをする時間を取ることができた」(小泉さん)のが転機となった。
コーヒーのための道具と器
自宅で過ごす時間が長くなり、美味しいコーヒーを楽しみたいと、道具や豆、器にこだわる人も増えている昨今。特にご注目いただきたいのが、SITAKU新作で、直接ドリッパーを乗せてドリップできるコーヒーポットだ。
小泉さんとは有田HOUENシリーズで、ポットの開発を行った経緯がある。すでに廃番となってしまったが、「思い入れのあるデザインなので、修正して商品化したい」という小泉さんの強い希望もあり、今回のラインナップに加わった。
苦悩のサンプル製作 4回の作り直しを経て生まれたカタチ
小泉さんのデザイン案をもとに、まずは樹脂サンプルを作って、形状の確認をし、そこでOKがでたら、型を起こして実際に磁器での制作工程に進むのだが、
「十分に検証をしてデザインを行いますが、試作ができあがって検証すると、どうしても気になるところが見つかるもので、今回も、何度も何度も作り直しをしていただくことになり、本当にご苦労をおかけしました」と語る小泉さん。
KIHARAスタッフは、そうした細かなディテールへのこだわりに応え、職人たちとともにトライアンドエラーを繰り返す。ようやく最終形へとたどり着いたのは、4回目。試作を始めてから2年の歳月が経っていた。
試作のたびに実際にご自身で使い、何度も検証を重ねてきた小泉さんは
「道具としての性能を満たせたことに安堵感もあり、日常で使い続けられる道具に仕上がったと思います」と自信をのぞかせる。
シンプルな美しさと機能性
KIHARAが開発した小泉誠デザインの器、有田HOUENシリーズとSITAKUシリーズに共通するのは、シンプルな美しさと機能性。
「有田HOUENもSITAKUも、考え方は同じです。容量、使い勝手、つくり勝手、使われるシーンなど、性能から形を追い求めた結果、潔く素直な形になりました」(小泉さん)
「使いやすさとシンプルなフォルムデザインのバランスはとても難しいと思いますが、キッチンや食卓で何気なく存在しつつ、どこか特徴のある小泉さんのデザインに惹かれます」(KIHARA開発担当)
一見シンプル、でもそれだけではないこだわりを感じさせる小泉さんのデザイン。
それが、発売から20年近くたつ今も、世界中で愛される理由なのだろう。
「いつまでも使い続けられる道具を目指して作りました。シンプルで素朴な形ですが、使い勝手のいい道具に仕上がっています。その形を見つけるために、つくりての皆さんの経験と心意気がたくさん詰まっています。なので、安心して気軽に使っていただければと思います」- 小泉誠
有田HOUENからSITAKUへとコンセプトを受け継ぎながら、小泉誠さんとKIHARAが歩んだ20年。これから先の取り組みにも期待したい。
DESIGNER
小泉 誠
1960年東京生まれ。デザイナーの原兆英・原成光両氏に師事した後、1990年コイズミスタジオ設立。箸置から建築まで生活に関わる全てのデザインを手がける。2003年にはデザインを伝える場として東京の国立市に「こいずみ道具店」を開きリアルなデザイン活動を展開している。
http://www.koizumi-studio.jp/