磁器でありながら、土もののような柔らかな風合いを残した「素磁(SOJI)」は、KIHARAが初めて形状からすべてオリジナルで開発したコレクションだ。釉薬の技法にインスピレーションを受けたというものづくりのはじまりを紹介する。
(取材・文:ハマノユリコ)
KIHARAの商品はシンプルでモダンなイメージのものが多いですが、素磁はどこか素朴で暖かみがありますね。何か開発のきっかけなどはあるのでしょうか
素磁は、KIHARAが初めて形状からすべてオリジナルで開発した商品なんです。
ちょうどKOMONの開発を進めていた頃、技法のインスピレーションを得るために、窯元をいくつか視察していたのですが、とある窯元の倉庫の奥に眠っていた古い割烹食器の釉薬の質感が気になって。 白いマットな釉薬だったんですが、最終的に商品化した素磁よりも、もっとざらざらした素材感が残るものでしたね。
素磁シリーズには、マットな白、ブラックに近い藍、クリームがかった色むらのある茶の釉薬がありますが、まずはどのように開発が進められたのか教えてください
日頃お付き合いしているのが釉薬の扱いが得意な窯元だったので、釉かけで表情をみせるような商品を開発してみようということになりました。最初は白だけの展開で、他の色釉薬ができたのはさらに一年後になります。
ひとくちに白いマット釉といっても、釉薬の配合はさまざまで、開発当初はもっと鉄粉の茶色が目立つ、素材感のある色をイメージしていました。でも安定的に量産をすることを考えると鉄粉のコントロールが難しく、現在のマットな白に落ち着きました。
採用したマット釉は、しっとりとした風合いがありますね
マットな質感を出す釉薬は焼成時にムラになりやすく、扱いが難しい釉薬です。そのためまず全体的に釉薬をかけたあと、もう一度スプレーで釉掛けをして表面を整えています。スプレーで目の細かい釉薬を吹き付けることにより、しっとりした表情も生み出すことができるんです。釉薬の扱いに精通した窯元の技術のおかげで、思い描いた質感に仕上がっています。
商品化するアイテムはどのように決めていったのでしょうか
ティーセットなどのラインナップが少なかったので、ポットやピッチャー、カップなどの商品を強化しようと考えました。横に取手のある急須タイプだと日本茶の利用をイメージしてしまうので、汎用性のあるポットからまずデザインを始めました。
お茶をのむときには湯呑、紅茶やコーヒーにはマグカップ、湯冷ましやミルク入れ、ドレッシングなどにも使える大きめのピッチャーの4アイテムを取り揃えています。
若干、ティーセットとしてのまとまりは薄れているような気もしますが(笑)
多用途に使える、汎用性を重視しました。セットで利用するというよりも、形の類似性でシリーズ感を表現しています。確かに単品で購入される方も多いですね(笑)。国内より海外での需要が増えているのもこのシリーズの特徴です。
形をつくる上で、苦労した点などはありますか
お茶の香りを楽しめるよう、少し口のすぼまった丸みのある形状を基本デザインにしました。丸みとやさしい釉薬使いで、ほっとする安心感を表現しつつも、ところどころ直線で引き締め、磁器らしいシャープさや緊張感をプラスしています。釉薬が流れやすく、乾かすとき棚板に落ちたまま固まってしまうので、釉薬がたれにくい形状にもこだわりました。
控えめながらも丁寧なクオリティで定番商品に育った「素磁」。プロジェクトを振り返ってみていかがですか
初めて形状からの開発だったので、型、生地作り、釉掛けなどトータルでディレクションをするのが難しかったですね。でもKIHARAにとってとても貴重な経験となり、その後の商品開発にも役立っています。これからも窯元の専門技術を生かしながら、今の時代に合う商品を企画していきたいと思います。