これまでKIHARAは、シンガポールにおけるSupermamaとの出会いのように、事業推進を共にする現地のパートナーを得ることで、海外への販路開拓や拡大を進めてきた。しかし、欧州市場においては毎年パリで開催されるメゾン・エ・オブジェに出展するものの、なかなかパートナーが定まらず、商品開発の課題を感じていたという。
新たなビジネスモデルの確立を模索する中で導き出した、アーティスト・イン・レジデンスへの取り組みについて話を聞いた。
(取材・文:ハマノユリコ)
きっかけは、Maison & Objet
「2014年から継続してメゾン・エ・オブジェに出展していますが、思うようにビジネスパートナーを見つけることができず、欧州市場に向けた商品開発や販路開拓に課題を感じていました」
そう話すのは、KIHARA 取締役 ブランドマネージャーの松本幸治さん。
これまでに経験したシンガポールやオーストラリアでのビジネスとは異なるアプローチが必要だと模索しはじめたのは2018年のことだった。
「メゾン・エ・オブジェに継続出展する中で見えてきたのは、有田焼の美術品としての価値を認める市場性。でも日本のデザインをそのまま輸出するのではなくて、海外の好みに合うものにしなければ」
そんな思いが、「有田のものづくりの特性を海外クリエイターの新鮮な視点で解釈してもらった上で魅力を引き出すアートプロダクトの開発ができないか」と意識するきっかけになったという。
初めてのアーティストインレジデンス
そこでKIHARAは、メゾン・エ・オブジェで構築してきたネットワークの中からフランス在住の若手起業家Timothee Kaplanの協力を得て、フランスのグラフィックデザインユニットATELIER BINGOを有田へ招聘。2019年10月に約1週間のアーティスト・イン・レジデンスを初めて実施した。
KIHARAのスタッフやプロジェクトのサポートメンバーの案内で、有田焼産地内を見学し、ものづくりのインスピレーションを得て創作活動を行ったATELIER BINGOのお二人。グラフィックデザイナーということもあり、今回は既存の形状にグラフィックでのアプローチを試みた作品が仕上がった。
「まずはグラフィックでの表現から入るアートプロダクトが多くなるとは思います。でも実際に日本に来て、佐賀県有田という産地に滞在し、職人たちの技術を目の当たりにすることで、だんだんと磁器に精通してくると、形状に対してもクリエイティビティがわいてくるのではないでしょうか」と関係者も期待を寄せる。
新たなビジネスモデルの確立へ
第一弾となるATELIER BINGOのアート作品は、2020年1月に開催されたメゾン・エ・オブジェで発表。同時に第二弾のプロジェクトも始動させた。
海外からクリエイターを招聘して有田に滞在してもらい商品開発を行う今回のビジネスモデル。そのマッチングの場としてメゾン・エ・オブジェの会場を活用することにしたのだ。
Open Callで事前に有田でのアーティスト・イン・レジデンスに興味のあるクリエイターを募集したところ、100組を超える応募があり、書類選考を経て、メゾン・エ・オブジェ期間中、フランス、イギリス、オランダ、スペインのクリエイター、計9組と直接話をすることができたという。
「海外市場に向けた商品開発への取り組み方は、まだ試行錯誤の途中です。アーティスト・イン・レジデンスのプロジェクトがKIHARAの新しいビジネスモデルとなるかどうかはまだわかりませんが、関心を寄せていただくクリエイターの皆さんと関わる中で、アイデアの引き出しが増えていく感覚があります」とKIHARAブランドマネージャーの松本さん。
新型コロナウイルスによる世界的な影響により、アーティスト・イン・レジデンスを行える状況ではなくなり、2021年1月のメゾン・エ・オブジェも中止となったが、KIHARA商品を取り扱う欧州の代理店「MADE by KIHARA」との契約により、パリの中心地にてポップアップストアを期間限定でオープンするなど、継続的な挑戦が続いている。
「& KIHARA」プロジェクトとは
欧州市場に向け株式会社キハラが取り組む、海外クリエイターとのコラボレーションによる商品開発プロジェクトです。
2019年に初めてアーティスト・イン・レジデンスを実施し、有田にフランスのグラフィックデザインユニット ATELIER BINGO を招聘。2020年1月にパリで開催された欧州最大規模のインテリア・デザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ」で作品を発表しました。以降、SCOUT EDITIONS、Charlotte Mei、Amélie Fontaineら欧州のクリエイターとのコラボレーション実績を重ねています。
「& KIHARA」プロジェクトを通して、有田の職人の技術を生かしたアートプロダクトを展開することにより、有田焼や産地について興味を喚起し、認知を広めることを目指します。
https://e-kihara.co.jp/news/5604/